サステナビリティ・ESGと企業経営【コラム】

第1回

第1回 グリーバンス(苦情処理・救済)メカニズムの特長とは?
―日本企業の既存の内部通報制度(コンプライアンス通報)との異同


 多くの日本企業は、既に内部通報制度(コンプライアンス通報)を構築しており、これは企業のグリーバンスメカニズムの一種と評価することができる。

 グリーバンスメカニズムは、人権侵害情報の早期警戒システムとして、また、ステークホルダーである通報者との対話・協働(エンゲージメント)の機会を確保するメカニズムとして、人権デュー・ディリジェンス(人権DD)と不可分一体の関係にあり、適切に設置・運用することが求められる。また、グリーバンスメカニズムは、特に国連指導原則の原則31の要件を満たさなければならない。
 国連ビジネスと人権指導原則等が要請するグリーバンスメカニズムの利用者は、サプライ・チェーンにおける関係者(外国人技能実習生のみならず、テレビ局やCMスポンサー企業にとっての芸能従事者も含まれ得る)を含むステークホルダーを広く想定しているのに対し、内部通報制度の利用者は当該企業(グループ)の役員・従業員のみに限定されているのが一般的である。
 また、特にOECD多国籍企業行動指針が規定するグリーバンスメカニズムは、責任ある企業行動に関わる全ての問題(サプライ・チェーンにおける人権の保護、環境保全、気候変動、情報保護等の問題を含む)を広く対象としているのに対し、内部通報制度の対象案件は、法令・社内規範の違反に限定されているのが通常である。
 さらに、国連ビジネスと人権指導原則、OECD多国籍企業行動指針、及びILO多国籍企業宣言が規定するグリーバンスメカニズムは、日本企業の既存の内部通報制度と異なり、独立した専門家が積極的に関与して問題の解決を図ることにより、企業とステークホルダーの間の相互理解と対話が促進され、日本企業における苦情処理・問題解決の実効性が向上し、また、被害者の実効的救済を図ること等が可能になるという特長も有する(国連ビジネスと人権指導原則の原則31コメンタリー参照)。 
 なお、わが国でも企業不祥事発生の際には第三者委員会や調査委員会が設置されることが多い。平時の苦情処理・問題解決の段階においても、より簡易な形であれ、外部の独立専門家に仲介・調査を委ねる開かれた仕組みを確保することが、企業の苦情処理・問題解決に関してステークホルダーからの信頼を確保することにとり有益である。
 このように、グリーバンスメカニズムには、日本企業の既存の内部通報制度に比して多くの優位点がある。日本企業には、グリーバンスメカニズムを強化・発展させることが求められている。筆者が設立に従事し、現在共同代表理事を務めている、一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)は、日本企業の業界横断的なグリーバンスメカニズムの共同プラットフォームとして運営されており、参加企業も増加している所である。ご関心のある企業関係者はご連絡いただきたい。

一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)
https://jacer-bhr.org/index.html

内部通報制度とグリーバンス(苦情処理・救済)メ
カニズムの差異